77th Eビジネス研究会(2006.10.13開催)のレポートをお届けします。


『Web2.0の次にくるもの、「チームラボ」が描くWeb2.0後の世界とは』

~サーチとマッチングのテクノロジーを
              有機的かつ動的に構成させる手法について~

チームラボ株式会社 代表取締役社長 猪子 寿之 氏

セミナー詳細 http://www.e-labo.net/seminar77.html


 77回目の今回は、チームラボ株式会社 代表取締役社長の猪子寿之氏をお迎えして、サーチやマッチングの技術革新がもたらすウェブのリンク構造の進化、さらに、チームラボが描くWeb2.0後の世界についてお話いただきました。

■Web2.0の環境とは?

 猪子氏は、Web2.0を「ユーザーの手によって、情報を自由に整理できる環境」であるとし、その背景にはインターフェイスの革命、サイトの外部との関係性の革命があったからだといいます。
 すなわち、インターネットが登場した初期の頃はコンテンツそのものが少なく、ヤフーに代表される大手の検索エンジンが、インターネット全体をディレクトリを使って整理していたような状態でした。それがWeb2.0の時代に入り、ユーザーの手によって情報が整理されるようになったということです。

 例えば、今までサイトというのは、オーナーや運営者が主体で作ってきたものでした。しかし、最近ではミクシィのユーザー間で音楽の交換が行われるなど、情報が自由に受信・発信できるようになっています。
したがって、コンテンツの数は膨大なものになり、1サイトが提供する情報や商品などユーザーの選択肢も非常に増え、サイトへの入口もトップページだけではなくなっています。  

 このように、様々な入口からユーザーが情報を得るためにサイトに入ってくると、どのようなことが起こるのか――? これは、サイトそのものがディレクトリのような構造を持つことが、ほとんど意味をなさなくなってくるのです。

■進化するリンク構造

 チームラボでは、Web2.0型のサイト構築を企業に提供したり、その他にもコンテンツマッチング、レコメンデーションエンジン、視覚化検索エンジン、純国産検索エンジンの「SAGOOL(サグール)」など先端テクノロジーの開発も行っています。つまり、コンサルティングから企画・設計・開発までトータルにサポートしています。

 皆さんは、記事の中の単語にたくさんのリンクが付いていて、リンク先に飛べばその意味や単語に関連するニュース・ブログ等を読めるサイトを見たことがあると思います。

 この技術は、実はチームラボが開発したものです。さらに、最近ではこの技術を発展させて、重要であろう単語を抜き出してリンクを自動的にアップしていく機能、リンクしたサイトもサーチやコンテンツマッチできる機能、さらに、リンクそのものをもともと用意しなくてもよい機能などをチームラボが世界に先がけて開発しました。

 冒頭の話に戻ると、こうした技術に象徴されるように、サイトそのものがディレクトリのようにしっかりと設計されるものではなくなり、様々なコンテンツがあって、そのリンクがどんどん有機的に増えていくと、サイトの造り自体も「最適なコンテンツへ自動的にリンクが行われるような方向へ変化していく」と猪子氏はいいます。

■様々なサーチ・マッチングの技術手法
 

 サーチやマッチングには、様々な技術の手法があります。マッチングサイトのテクノロジーについて簡単に説明すると、最も有名なのは「レコメンデーションサーチ」と呼ばれるものです。例えば、アマゾンが「この本を買った人はこんな本も買っています」という推薦情報がそれです。

 つまり、あるコンテンツにたどり着いたユーザーに他のコンテンツのリンクを作っていくという技術です。この仕組みは、アクセスのログすなわちユーザーの行動履歴を使って、レコメンド(推薦)していくというものです。

 また、これと近い技術に「コンテンツマッチ」があります。グーグルのアドセンスなどに使われているものですが、アクセスログを使うのではなく、コンテンツそのものの内容を見て、それに近いコンテンツを自動的に出すという技術です。

 両者は非常によく似た技術ですが、レコメンドされるものが違っています。
「レコメンデーションサーチ」は、ユーザーの行動履歴から推薦するので、コンテンツの見た目は似通ったものとなり、人間の感覚に近い機能になります。一方、コンテンツマッチはコンテンツ同士の近さになります。このメリットとしては、行動履歴がなくてもいいので、ニュースのように配信した瞬間に信号を付けられるということです。

 このように、一言でサーチといっても様々な手法があります。上記以外にも、例えば新着順に並べているもの、コンテンツが製造された時間順に表示するもの、単語とコンテンツのマッチ度順に表示するもの、グーグルのページランクのようなアルゴリズムでサーチのランキングを決めているもの、と多様な視点があります。

 その点、チームラボが提供する検索エンジン「SAGOOL(サグール)」は非常にユニークで、ページランクではなく、インターネット上の情報を『面白い順』に表示するアルゴリズムを作っています。
例えば、グーグルで「ドラえもん」を検索した場合、上位には公式ページが出てきますが、「サグール」では「最終回シリーズ総合ページ」「のび太としずかちゃんの恋話」「LEGOで作ったドラえもんのページ」などユニークなページが並びます。

■ユーザーの『関心』に応える技術

 これまで見てきたように、サーチやマッチングの手法には様々なものがあることがお分かりいただけたと思います。今後コンテンツがどんどん増えて、ユーザーの選択肢が増えていくと、ユーザーは映画や本や音楽など自分の関心に対して、より「まだ知らないもの、好きなもの、新しいものに出会いたい」という欲求を持つでしょう。

 しかし、こういった欲求はキーワードやスペックで検索することが不可能です。したがって、より直感的に出会っていきたい、というニーズが必ず出てくると猪子氏はいいます。そういった欲求を直感的に探せるようにサイト内のコンテンツを視覚化していく、いわば「検索とマッチングの中間のような技術」も今後は重要になるでしょう。

● 質疑応答

Q1 「サイトのコンテンツというのは、ユーザーがどんどん上げていくの
   で用意する必要がない」というのがWeb2.0の特徴の1つだと思うので
   すが、逆にサイトのシステムそのものを作るコストについては、どの
   くらいを目安に考える必要があるのでしょうか? また、Web2.0は 
   ユーザーサイドにメリットの大きいサイトが多いというイメージがあ
   りますが、事業として収益を上げていくには、やはり広告を使うのが
   最も有効なのでしょうか?

A1 システムに関するコストについては場合によりけりで、すごく小さい
   会社のホームページくらいなら、ムーバブルタイプをベースにブログ
   の延長のようなものが作れてしまいますし、最近はECサイトの中に 
   オープンソースのものがいくつも出てきています。そういったものを
   使えば、低コストでシステムを作ることができます。つまり、全体的
   に今までコストの掛かっていたものが掛からなくなってきていますの
   で、そのあたりでコストを抑えていくという手法もあります。収益の
   上げ方については、おそらく、これまで最もWeb2.0を意識していた企
   業はアマゾンさんだと思うのですが、アマゾンさんは既にディレクト
   リを捨てて、レコメンデーションだけでサイトを作ろうとしています。
   今後は、今まで広告が付かなかった意外なサイトに広告が付く可能性
   もあります。


Q2 サイトのサービスの中で登竜門的な機能があるというお話で、おそら
   くこれは質のいいコンテンツをテレビで流したり、DVDにして販売す
   るということだと思います。しかし、実際に一般ユーザーが作ったコ
   ンテンツの中で、どれくらい質のいいものが出てくるとお考えですか?

A2 弊社のソフトは基本的に汎用化されたソフトです。ですから、動画の
   ポータルサイトがこのレコメンデーションエンジンを買っていただけ
   れば、基本的にアクセスのログを使っているので、動画であろうと音
   楽であろうとニュースであろうと、関係なく使うことができます。


Q3 今回のセミナーのタイトル「Web2.0の次に来るもの」に関連して、そ
   もそも本質的なWeb2.0とは何なのでしょうか? 特に今まではweb 
   ページの単位でアドレスがあって、それがリンクでつながっていたも
   のが、もっと細かく、一言書いたメッセージなどが融合できる――
   そういった意味でのWeb2.0に関して、チームラボさんと世間の会社と
   の違いはどんなところですか?

A3 基本的に、サイトマップそのものがサーチやマッチングのテクノロ 
   ジーによって自動で生成されていく、それは有機的に常に変っていく。
   つまり、あるページがどのページに飛ぶかというのも動的に変ってい
   くと思っています。 実際、うちの会社がもっと興味のあるところは、
   Web2.0というよりも「主観的なことがテクノロジーになるのではない
   か」ということなのです。言い換えると、客観化しなくてもテクノロ
   ジーになるということです。例えば、今までの技術だと「自分の知ら
   ない自分の好きなものに出会う」ための技術などはなかったと思いま
   す。「SAGOOL(サグール)」のように、テクノロジーなのに「面白い
   順に出す」というような動的な部分に、いまは最も関心があります。

                                       2006.10.13